森美術館で開催中の「医学と芸術」展へ。医学史や身体表象の歴史について、なにか体系だった知識を提示するというよりも、時代や地域によって多種多様ながら共通項もある身体観を、いくつかのテーマ設定の下に布置してみせたという感じの展覧会。医学そのものというよりは、「身体への眼差し」や「身体と傷病」が主題となっている。歴史的な医学図版や医療機器も、それらと並んで配されている現代アートの作品も、ともに視覚的衝撃度の強いものが多く、「驚異」を楽しみ、またオブジェとしての美を愛でるためのエキシビションと言った趣き。
会期中に展示替えがあったのか、以前に足を運ばれた方からお薦め頂いた「義眼のコレクション」が、会場では見ることができなかったのが残念(展覧会カタログには収録されている)。「16歳の少女のための義手」(華奢な作りが可憐で、木と金属の組合せが硬質な処女性を漂わせている。川端康成ならば、この腕を植物の茎に喩えるであろう)と、「ハンガー社製、軽量の義足」(すらりと伸びた真っ直ぐな骨格と、端正に付いた筋肉とが、青年と壮年の過渡期にある男性の、秀でた身体を連想させる)が、フェティッシュな美しさという点で印象に残った。
今回の展示の母体であるウェルカム財団からの依頼で作成されたという、クエイ兄弟による映像作品「ファントム・ミュージアム」では、一時代前の医療器具の、キネティックなオブジェとしての美しさがよく表現されている。建築空間の幻想的な写し方も、独特で美しい。しかし、「貴重なコレクション品を、依頼に基づいて撮っている」ためなのか、彼らの代表作『ストリート・オブ・クロコダイル』などと比べると、オブジェの取り扱いが遠慮がちで定型的だったのが残念。
医学は抽象的・観念的な「規範的身体」を想定した上で、「矯正」や「治療」を行うための体系であるが、それが問題となるのは常に、病や老いや死、障害や異常というdeviationが存在するときなのだ、と実感する。