「内側から喰い破る」イメージの反復。
ぐちゃぐちゃと不定形で生理的嫌悪感を催させる物質(食物、内臓、粘土……)。形あるものが一度ぐちゃりと潰れて、再び形を取る。
口唇のイメージが図抜けてリアル(「食べることに人間の攻撃性が象徴されている」との発言もあるから、意図的な演出だろう)。
未来世紀ブラジル [DVD]

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テロリズムに対する過防備状況については、既に数多の分析が出ていそうなので割愛。一連の騒動の原因となるミスタイプが、文字通り虫(bug)が入り込んだことによるコンピュータ(自動タイプライター?)のバグによって引き起こされるという、冒頭からナンセンスな展開。えらく旧式のコンピューター端末のスクリーンや割れた鏡など、メタイメージ構造の使い方が秀逸。人間の血管や腸のように「ダクト」の張り巡らされた空間構成も面白い。登場する機械類は、現代的なブラックボックスではなく、動作の仕組を目視できる「機械仕掛け」がほとんど。一時代前の工場やコンビナートを思わせる舞台背景や、ラストシーンで登場する幻想的でメガロマニアックな建築物と併せて、この手のイメージが好きな手合いには楽しめる映像だろう。一役人である主人公が、官僚機構特有の迂遠さに行動を阻まれつつ、全体像を見通せない騒動に巻き込まれていくという点では、暴力的なSFに仕立てたカフカ作品、といった感もある。