近代日本のオリエンタロ=オクシデンタリズム
・井上章一『法隆寺への精神史』弘文堂、1994.(ISBN:4335550561)
・高階絵里加『異界の海――芳翠・清輝・天心における西洋』三好企画、2000.(ISBN:4938740370)
明治20年代後半、条約改正と日清戦争を二大事件とするナショナリズムの時代は、「日本人」の「起源」が探求/創出された時代でもある。そこではしばしば、日本の「起源」としての古代や理想郷としての天平と、古典古代のギリシアやローマを重ね合わせようとする眼差しが介入していた。上記は、「入り口」のための二次文献として、とりあえず入手したもの。
井上氏の著作は、商業誌(『文学界』)連載が初出の所為か、独自の分析や解釈の提示という点では弱い(*)のだが、膨大な一次資料へのガイドとしては極めて優れている。
(* 例えば井上氏が、日本の「起源(もどき)」を泰西の古典古代に擬する(もどく)という営為を、国粋主義と対立する「脱亜論的」な「西欧追随」主義としているのは、あまりに単純な割り切りなのではないか。日本の「起源」を西欧古典古代と二重焼にする眼差しは、むしろこの時代のナショナリズムの一ヴァリアントなのではないだろうか。)
高階氏の著作は、博士論文を加筆訂正したものということであり、対象範囲は比較的狭く深い。西洋(とりわけフランス)美術史、さらには仏文学への素養を活かしつつ、実証的資料も緻密に浚った論考。あくまでも正統的な「美術史」のディシプリンに基づいた論考といおうか、同時代のイデオロギッシュなコンテクストへの目配りは、あまりなされていないようだ。