水戸芸術館で開催中の『YES,オノ・ヨーコ』展へ。「インストラクション・アート」と呼ばれる作品のうちのいくつかは経年変化のために劣化し、美術館側の「インストラクション」によって接触や参加が禁止されるという事態が出現していた。まるで、リアルなパイプの絵の下に「これはパイプではない」と書かれているようなダブル・バインド状況で、少し笑う。

コンセプチュアル・アートというと、今日となってはどこか嫌味たらしく胡散臭い印象が付き纏うが、フォーマリズムやポップ・アートが席巻した後に出てきたオノの作品は、やはり当時においては圧倒的で破壊的な新しさをもっていたのだろう。白を基調とする作品が多く、しかもそれは他者の接触を拒絶する神経質な――病室のような――白でも、虚無的な白でもなく、微かな精神的浄化を感じられるものであった。

なかでも自分の印象に残ったのは、椅子をぼろぼろの布で覆った「ラッピング・ピース・フォー・ロンドン」と題された作品だ。椅子は無機物であると同時に、人間の身体に寄り添い、そしてそれを支える存在でもある。さらにそれを包む布は、まるで風化した包帯のようで、手当てや育児などの「包むことによるケア」を連想させると同時に、負傷者あるいはミイラなどの、死のイメージをも喚起している。

この時期にオノ・ヨーコの回顧展が世界を巡回する背景には、おそらくは昨今の世界情勢があるのだろう。しかし、単なる時事問題とそれに対する倫理的規範の表明のみには還元し得ないような、強度をもつ作品群であった。