デジタル・アーカイヴをめぐるシンポジウム

[タイトル] 「オウィディウス・挿絵・アーカイブ・・デジタル時代の図像学を考える」
[日 時]  2007年9月29日(土) 午後13時30分〜19時00分
[場 所]  日仏会館1Fホール(東京都渋谷区恵比寿3-9-25)
[開催趣旨] 近年、美術史研究の視点はますます多様化しています。とりわけ国内外では一次資料や画像のデジタル・アーカイブ化とその公開が促進されており、図像学的視点の新たな可能性も開けてきました。こうした状況を踏まえつつ、当シンポジウムでは、「デジタル時代における図像学のあり方」について考えます。
第一セッションでは、「美術史研究と挿絵本」と題して、フランス近代絵画においてしばしば描かれたオウィディウスの『変身物語』や、タッソの物語を考察し、その中に認められる挿絵と絵画との関係を図像学の視点から論じます。その過程では、国境を越えたフランドル絵画との関連も対象となります。
第二セッションでは、「デジタル・アーカイブ:記述と描写の文化的翻案」と題して、近年、大きな展開を示しているデジタル・アーカイブに議論を広げます。現代では、デジタル・アーカイブの活用無くして、図像分析はありえないからです。そこでは、イメージ芸術における記述と描写の文化的翻案の問題と、画像索引のあり方について議論を深めたいと思います。
[プログラム]
第一セッション「美術史研究と挿絵本」
13:30〜13:50 木村 三郎(日本大学教授)
基調報告「挿絵・図像・出版文化・・・オウィディウス『変身物語』(1559 伊訳版、1615仏訳版)のデジタル・アーカイブ化の試みから」
13:55〜14:15 小野崎 康裕(川村女子学園大学教授)
研究発表「《イオ》の系譜―オウィディウスに至る変身譚継承の一様相―」
14:20〜14:50 新畑 泰秀(横浜美術館主任学芸員
研究発表「オウィディウスの『変身物語』――16・17世紀の挿絵本とフランス絵画」
14:55〜15:15 栗田 秀法(名古屋芸術大学准教授)
研究発表「ニコラ・プッサン作《エコーとナルキッソス》と挿絵本の伝統について」 15:20〜15:40 望月 典子(慶應義塾大学非常勤講師)
研究発表「ニコラ・プッサン作《連れ去られるリナルド》・・・トルクァート・タッ
ソ『解放されたエルサレム』の絵画化をめぐって」
15:45〜16:05 安室 可奈子(日本大学非常勤講師)
研究発表「18世紀フランスにおけるオウィディウス挿絵本の刊行状況とディアナ図像」
16:10〜16:30 森 洋子(明治大学名誉教授)
研究発表「失われたブリューゲル(?)の《イカロスの墜落》――ダエダロス不在の寓意的な意味――」 
第二セッション「デジタル・アーカイブ:記述と描写の文化的翻案」
17:00〜17:15 木村 三郎(日本大学教授) 
趣旨説明
17:15〜17:30 鯨井 秀伸(愛知県美術館主任学芸員
研究発表「アドニスのイメジャリー:記述と描写の文化的翻案」
17:30〜17:45 松田 隆美(慶応大学教授)
研究発表「テクストとパラテクスト−15・16世紀挿絵本のデジタル・エディション」 17:45〜18:00 大西 廣(前武蔵大学教授)
研究発表「絵本・絵手本のアーカイブ─金沢美大における『江戸時代出版文化データベース』の構築を踏まえて」
18:00〜19:00 パネルディスカッション
鯨井 秀伸(座長)+松田 隆美+大西 廣+木村 三郎
[参考]
下記のURLは、近年わが国の各大学で試みられている、画像を含んだ図像学系デジタ
ル・アーカイブの事例で、本シンポジウムの議論のためのたたき台となるものです。
シンポジウムにご参加の方々は、是非閲覧の上、参加されることを希望します。
西洋古代ローマ資料・近世の版画他(東京大学)
http://www.picure.l.u-tokyo.ac.jp:8080/piranesi.html
西洋中世・近世の挿絵他(慶応大学)
http://www.humi.keio.ac.jp/en/index.html
http://www.humi.keio.ac.jp/~matsuda/catalogue/emblem/index/index_ctj.html
http://www.flet.keio.ac.jp/~matsuda/ks/185b/185bmenufr.htm
西洋近世におけるオウィディウスの版の挿絵(日本大学
http://ovidmeta.jp/
日本美術史における絵手本(金沢美術工芸大学
http://www.kanazawa-bidai.ac.jp/cgi-bin/edels.pl
[主催] 日仏美術学会
[共催] 科学研究費・基盤研究(C)(19520112)共同研究グループ
[後援] アート・ドキュメンテーション学会
[協力] 日本大学総合学術情報センター
[参加費等] 無料・予約不要
※お問い合わせは、メールovide2007sept@yahoo.co.jpまでお願いします。

何らかの新技術が、新しい思考や認識の枠組をもたらすという常套的なテーゼ自体が、実はかなりナイーヴなものなのではないかと思う今日この頃。「デジタル」(ないしは「ヴァーチャル」?)という点ばかりをクロースアップするのであれば、それはすでに10年以上も前から、例えば書物とウェブ上のテクスト空間の対比という形で論じられてきたことと、あまり変らない構造の議論に帰着してしまうだろうし。
今回のシンポジウムのタイトルを見る限りでは、時事性の強いテーマに託けて、結局は個々人の専門分野での調査結果を発表するだけで終わってしまうような印象があるのだが。
かといって、例えばマルローの「想像の美術館」やヴァールブルクの「ムネモシュネ」などとの単なる類比を持ち出すだけでは、もはやデジタル・アーカイヴを語るに際しては手垢が付いた印象がある。アナログ時代の「ヴァーチャルアーカイヴ」がもっていた物質的な次元での特性――平面上での物理的な隣接関係、一人の編集者の意図的なコントロールによって定められた集合と配置であること、当時の複製技術の制約による画像の「不完全さ」――であるとか、あるいはウェブ上での操作の特質――検索による必要な情報への「効率的」なショートカット、「関連(があるとウェブマスター、あるいは利用者の大多数が判断した)情報」へのリンク、拡大や縮小の恣意性など――が、イメージの集合関係や連結関係にいかに影響を与えるのかとか……自分で考えてもあまり面白いテーマは浮かばないけれど。
もう一つ、デジタル技術と芸術というテーマで必ず浮上するのが、著作権などの「知的財産権」の問題だろう。この問いについて自分の最大の関心は、「法」や「行政」の思考様式、ないしはそれらの前提である私有財産制に基づく経済活動の諸制度と、芸術に関する学問(つまりは人文系)の内部で緩やかに共有されているframe of referenceとの間の、齟齬や断絶にある。それを調停する妙案を、一個人が案出できるはずもないのだが、「言語」を異にする者どうしが、噛み合わない議論を続けた挙句に相手の物分りの悪さを嘆き合うという現状は、もう少しなんとかならないものかと思う。