北方紀行


2月13日から19日まで、シャンパーニュ(ランス、エペルネ)とアルザスストラスブールコルマール)を巡る旅をした。
ストラスブールコルマールも、フランスとドイツの伝統が並存し、独特の「郷土色」の色濃く残る、面白い街だった。以前ディジョンのスーパーのプロモ(特売)で見つけた「HANSI」デザインの可愛い菓子缶が、実はアルザスの特産だったことも知る。民族衣装に身を包んだ子供たちと地方特有の街並を、端正で愛らしい筆致で描き出したHANSI(本名ジャン=ジャック・ワルツ)は、どうやらアルザスが誇る郷土的偉人であるらしい。土産物屋には必ず、彼のイラストをあしらった絵本や小物が置かれていた。HANSIの画風はスイートな可愛らしさとノスタルジーに溢れているが、他方でドイツによる支配への痛烈な風刺と、祖国(=フランス)愛に直結する熱烈な郷土愛も潜んでいる。このような「我らの土地」の称揚は、私が今住むブルゴーニュ地方では今ひとつ希薄である(ブルゴーニュ公国時代という、特殊な歴史を持つにも関わらず)。「郷土」のアイデンティティが問題になるのは、何らかの危機や抑圧が存在するときなのかもしれない。
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街角の古道具屋で見つけた美しい絵葉書には、Deutschesreichの消印が。この土地を巡る複雑な歴史を、現在と繋がるものとして実感する。
コルマールではウンターリンデン美術館で、念願のイーゼンハイム祭壇画を見る。ユイスマンスが「破傷風のキリスト」と称した凄まじい磔刑図を含む、複雑な構造のトリプティックである。実物は解体して展示してあるが、壁には祭壇画の縮小模型が掛けられ、絵画的ナラティヴと空間構造の関連を実体験することができる。

同じ美術館では、マジックランタンを主題にした企画展もやっていた。マジックランタンと言うと、今日のスライドのような静止画像のイメージを持っていたが、実際は映画や漫画のコマ割りにも通じるような、連続画像もあったらしい。小規模ながら面白い展示だった。
シャンパーニュアルザスで撮り貯めた写真のうち、「光」と「時計」に関するものをアップロード。
fiat lux
機械仕掛けの小宇宙
この記事の冒頭にある写真は、ストラスブールの駅舎。古典主義建築の上から、ガラスのカプセルを被せたようになっている。フランスではこの手の「新旧融合的」な建物は余り見たことがないので、妙に新鮮だった。