滞在許可証の更新

  
長々しい大学構内オデュッセイアーを終えて、ようやく博士課程登録、滞在許可証更新申請、学生寮の賃借権(?)更新が完了。博士課程登録など、記入しなければならない書類だけでも5種類、さらには3名(指導教官、専攻長、学科長)の署名を面会予約(rendez-vous)を取り付けた後に徴求しなければならず、さらには事務掛への書類提出・登録手続きに際しても、メール連絡によるRDVが必要。カフカの小説にでも出てきそうな、迂遠な手続作業であった。
旧・滞在許可証の期限は、申請を行った9月下旬となっている。一方、自分は第2セッション(9月中旬論文提出、10月上旬口頭試問・結果発表)で修士(Master2)論文を提出したため、許可証更新に必要な「学事登録(l'inscription)の証明」を得るのは、どうしても10月中旬以降になってしまう。ブルゴーニュ大学では、9月から10月までは大学事務部に県庁(préfecture)の出張窓口が設置され、そこに必要書類を提出して申請を行う仕組になっている。許可証の期限が切れる前に、この出張窓口の職員に尋ねたところ、「更新は大学への登録が済んでいないと申請できない。その間に許可証の期限が切れてしまっても、その点は問題ない。」との回答だった。今回、更新申請を受け付けてくれた職員も、当初は許可証の期限が徒過していることを指摘してきたが、私が「今日やっと大学登録が終わったところなので」と説明すると、納得した顔になった。だから、大学への登録が終了するまでに許可証の失効期間が出てしまうことは、県庁職員の中では了解事項になっていると考えていいだろう。
フランス国内で大人しくしている分には、この状態でも特に問題はないのだろうが、ある理由で11月中にどうしてもスペイン旅行がしたくなり、はたと困ってしまった。オンライン検索で出てきた在仏日本人の経験談には、「更新のケースであれば、『受取証récépissé』があればフランス出国・再入国ができる(ただし、初回申請時は不可)」とある。だが、ブルゴーニュ大を窓口とした申請では、「l'attesttion de dépôt de dossier(書類提出の証明書)」は貰えるが、「récépissé」(どうやら本人の証明写真が添付されており、このレセピセ自体にも数ヶ月の有効期限があるらしい)は貰えないのである。窓口で受け取った前者の書類には、「この書類はなんら滞在身分を保証するものではない」との注意書きがある。県庁に行って手続きを確認し、récépisséなりvisa de retour(再入国ビザ)なりを貰ってくるのがいちばん確実なのだろうが、フランスの行政過程でいちばん恐ろしいのは、職員によって対応が異なるということ。「県庁職員がああ言っていたのだから、合法・適法なのだろう」という信頼を、安易にもつことができない国なのである。……ここは法治国家ではなかったのか?
そもそも、「大学の登録が終わるまでは許可証の更新手続ができない。失効期間がでても構わない。」というのも、出張窓口の職員の裁量、というよりも勝手な判断の可能性も高い。本来であれば、試験結果がでて滞在身分が確定するまで、なにか暫定的な延長手続を取るべきだったのではないだろうか……今回いろいろと検索していて呆れたのが、日本語で出てくる情報の大半が素人(フランス行政担当者ではない人物)からの伝聞か、自分の経験則でしかないということ。事実は当為を保証しないだろうヒューム的に考えて。
そんなわけで、滞在許可証関連のフランス行政法規について、オンラインでアクセスできる範囲で調べてみた。……正直なところ、自分の現在の状態でスペイン旅行できるのか?という具体的な疑問は解決しなかったのだが、後学のためにリンク。

  • フランス法規のオンラインデータベースlegifranceより、一時滞在許可証に関する条項。

http://www.legifrance.gouv.fr/affichSarde.do?reprise=true&page=1&idSarde=SARDOBJT000007122277&ordre=null&nature=null&g=ls

  • EU圏外出身の外国人が、シェンゲン条約外の国からフランスに再入国する場合の手続について(日本に一時帰国するケースが典型例)。

http://vosdroits.service-public.fr/particuliers/F12189.xhtml
「外国人」として生活していると、国家の諸制度(法律や国際条約を含めて)が、自分の行動を束縛する頑丈な鉄格子として浮かび上がってくるのを、切実な経験として実感する。
写真は、真冬のキール湖と初夏の郊外の風景。フランスの美しい部分ということで。