ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァー旅行記 (岩波文庫)

ガリヴァー旅行記(スウィフト、1726年)
形状:いずれも遭難によって辿り着いた陸海の孤島。「フリークス」的住民が独特の制度を発達させている、西欧にとっては未知の国々。

語り:主人公ガリヴァーの語る旅行記という体裁を取る。巻末に、ガリヴァーから従兄シンプソンに宛てた書簡形式のテクスト(出版経緯について)が収められている。

趣旨:架空の国々を巡る想像上の冒険譚であるが、一種の政策論・立法論、現状の制度への批判や風刺も含んでいる。
それぞれの国について、制度や習俗、国民の道徳性についての詳述あり。

その他特徴的な点:

  • 言語的な障壁と、その越境。最初は全く未知の言語の中に置かれた主人公が、その記憶力を活かして次第にその国の言語を習得し、仕舞いには君主のお気に入りとなって、政策論などの議論を交わすというパターン。
  • 法律への不信。
  • フヌイヌム国での、フヌイヌム(馬)の徳の高さ、対照的に、ヤフー(原始的人間?)の性悪。フヌイヌムはヤフーを、原始状態に帰り野蛮になってしまった、ガリヴァー(=文明人)と同種の生き物と解釈する(386ページ)。

「自然人」の美徳を体現する存在としてのフヌイヌム?

できることならどこか小さな、人の住んでいない、といっても、働きさえすればどうにか生きてゆくのに必要な物は手に入るといった、適当な島を見つけたいというのが、私の願いであった。そういう生活ができれば、ヨーロッパでも最も洗練された宮廷に仕える首相になるよりも、遥かに幸福な生活だろう、と思わざるを得ない心境であった。ヤフーどもの社会に舞い戻り、その政治体制の下で暮らすなんて、考えただけでも慄然とした。自分の願ってやまない孤独な生活をおくることができれば、せめて黙々と思索に耽ることも、あの類まれなフヌイヌムたちの美徳を心ゆくばかり偲ぶこともできる。況や、わが同類独特のあの悖徳や腐敗に再び誘いこまれる機会など全くありえないであろう……。(404ページ。)