教皇クレメンス13世

最盛期のピラネージのパトロンだったのが、同郷人(ヴェネツィア出身)の教皇クレメンス13世(在位1758-1769)である。クレメンス13世の時代は、ヨーロッパ各国(スペイン、ポルトガル両シチリア王国ナポリ王国)でイエズス会士追放の動きが強まり、またフランスのジャンセニスムが一種のナショナリスム的な(この形容が適切なのか分からないが)傾向(=ガリカニスム)との結合をみせるなど、教皇権にとっては驚異の時代だった。古代ローマの栄華を讃えるピラネージへのパトロネージ供与にも、ローマという土地の威信、そこに在する教皇の権威と権力を確認し維持したいという願望が含まれていたであろう。そこではキリスト教的伝統ではなく、「ローマという土地の古層に眠る記憶」「キリスト教的時代とは断絶のある、異教的過去」が呼び戻されることとなる。教皇権の古代ローマ皇帝権への投影も、もしかすると存在したのかもしれない。