les brique-a-braques


バルザックの『あら皮』で、主人公ラファエルが古道具屋に足を踏み入れた場面の描写から。

この店には神と人間のあらゆる作品がつのつきあわせて、複雑な光景を呈していることが一見してうなずけた。剥製の鰐、猿、大蛇などが聖堂の焼絵玻璃にほほえみかけている。彼らは胸像をかじりたげな、漆器を追いたげな、あるいは燭台のうえを這いたげな様子をみせていた。ジャコト夫人がナポレオンの像をえがいたセーヴル焼の壺は、セゾストリスに捧げられたスフィンクスと隣りあわせている。世のはじまりときのうの出来事とが奇怪に雑居しているのだ。[…]しかしこの奇怪な光景は、その乱雑な配置により、また光と闇のはげしい対立によってあやしげな影をつくり、そのために光線はきわまりない変化をみせている。耳はきれぎれの叫びを聞くかと思うばかり、心ははてしない悲劇に打たれ、瞳は奔放な光線に射すくめられる。そしてつもりつもった埃におおわれているこれらの古物の錯雑した稜角や多角な曲線は、なによりも美しい効果をあらわしていた。[…]そこでは、そのむかしパドモス島で聖ヨハネの目のまえを未来の姿が閃々とよぎったように、全世界の断片が火の箭のように彼の目のまえを去来するのだった。
山内義雄鈴木健郎訳『バルザック全集第3巻』東京創元社、1973年、15-16ページ。)

さまざまな時代と土地に属していた事物の数々が、一つの空間に集められて、その不完全な姿のままに埃を被りながら、それぞれの過去を見る者に語り掛けくる。
ピラネージの『アッピア街道』が、古道具屋の店先のようだという指摘を以前に受けたことがあるのだが、それを唐突に思い出した。

ちなみに、diminuer comme une peau de chagrinという仏語の慣用句はこの『あら皮(peau de chagrin)』に由来していて、「徐々に減って、終いにはすっかりなくなってしまう」という意味だそうだ。