・Anatomie du desir ハンス・ベルメール展(ポンピドーセンター)
ベルメールの作品(主にドローイングと写真)を年代順に並べた展示。人形の実物展示は一体、オブジェ作品が二点。量的にかなり充実している。作品集や日本での展示ではあまり見かけない作品もあって、楽しめた。「解剖学」や「サディズム」などは既にベルメールを語る際の常套句となって久しいが、幼年時代の想起という説明は新鮮だった。人形やビー玉、そして子供の身体。遠い昔の根源的な身体感覚とどこかで結合した、迂遠なエロティシズム。

・Big Bang展(ポンピドーセンター)
モダンアートの特徴的な作品を、テマティックで分類して見せるもの。テーマの立て方は概して既視観のあるものだったけれど、「bride」や「prostitute」という観点はちょっと面白いと思った。もっとも、さほど深く掘り下げられているわけでも、意外性のある作品を持ってきているわけでもないのだけれど。日本で言えば大学の学部1・2年生あたりを対象に、モダンアートを現代思想と絡めて語る基礎教養講座という感じだろうか。

・Dora Maar展(ピカソ美術館)
ドラとの交流を中心に、ピカソの作品を配列した展示。特にコンセプトが際立っているとか、凄く良く練られているとかいうのではないのだけれど、作品数の充実ぶりに圧倒される。日本ではちょっとできない種類の展示かもしれない。
土曜日に行ったせいもあるだろうけど、ピカソ美術館はかなり混雑していた。パリでも、人垣ができる類の作家や作品は、あまり日本と変わらないという印象。

その他には、ルーヴルと中世美術館に。こちらは常設展示のみ。
実物を目の前にすると、絵画作品よりも彫刻の方が現前性や迫真性が強いように感じられた。巨大な油彩画の場合、表面が光を反射してよく見えないことがある。さらには、美術館はまだしも、薄暗い室内の高所に絵画が掲げられている教会ともなると、タブロー内の可視的な範囲はかなり限定的であり、完全に鑑賞することができない。彫刻ではむしろ逆に、半ば闇に溶け込んだ部分こそが、作り物っぽさを減じさせ、一瞬生身の身体があるかのような錯覚を起こさせる。