藤島武二《天平の面影》

天平の面影、作家藤島武二氏人に語りて曰く、此画を描くに至りし動機ども称すべきハ昨年奈良に遊びて普く古画古物像を渉猟し端りなくも正倉院珍襲の箜篌(藤島作品において女性が持っている竪琴状の楽器)を一見したり。(中略)而して之を描くにハ古代画風により、婆裟たる天女の服装のごときハ天平時代宮中貴嬪の服装を混じて彫刻したりとの説ある浄瑠寺の吉祥天、二月堂の日天月天、醍醐三宝院の過去因果経、及び正倉院御物樹下美人等を参考したるなり云々と善哉言や、作家にして即にこの抱負あり以て画面に臨む。
(「上野谷中の展覧会」『讀賣新聞明治35年(1902)年10月13日)