誰かの幻想(妄想)によって構築されていた世界が、最後に劇的なカタストロフィを迎える、というのが、ギリアム監督の十八番なのだろうか。迷信深い庶民をペテンにかけ、自作自演で悪い魔物を退治して儲けていたグリム兄弟が、女王の呪いに掛けられた村で本当の(?)魔法と対決する羽目になる、という物語なのだが、このストーリー自体が「自作自演の物語」であることを暗示するモチーフが幾つか出てくる。民間伝承の収集に血道を挙げるグリム弟(本来イケメン枠のヒース・レジャーが、おどおどしたナード君を演じているのが可愛い)が片時も手放さないノート(この映画で展開されている物語自体も、そこに書付けられているのだろう)、それから兄が弟に向かって言う、「お前ならこの物語の終わらせ方を知っているだろう」というセリフ。
長い眠りについていた女王(鏡像というか、表層を鏡そのものに覆われた存在)の体表が派手に割れ(鏡面の奥にゾンビのようなおぞましい皮膚が見える)、高い塔が一瞬のうちに崩落するシーンは圧巻。ナポレオンを戯画化したフランス将軍に差し出されるどろどろで正体不明の(嘔吐物か糞便のように見える)食べ物は、『未来世紀ブラジル』で登場するオードブルを思い出させる。
人口に膾炙したグリム童話が、粗雑な「カットアップ」となって引用されているが、この映画の醍醐味はむしろ、この意図的に演出されたチープさにあるのではないかと思う。グリム兄のお手製という妙にキラキラした鎧兜も、フランス軍のコスプレみたいなお仕着せも、やたらと大掛かりな拷問装置(一時期イエズス会の学者たちが熱中したという、巨大なからくり時計を連想させる)も、大仰な割にはどこかB級の安っぽさが漂っていて、その「人を喰ったような演出」が面白い。(アマゾンでのレビューがやたら辛口なのは、緻密に構成されたファンタジーや上質な冒険ものを求めた挙げ句に、期待を裏切られてしまったからではないだろうか。)
フリークス [DVD]

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かつての「見世物小屋」が放っていたであろう、猥雑で暴力的な――観る者の視覚や一種の「倫理観」に対して、暴力的に歯向かってくるという点で――雰囲気を感じ取れる作品。「見世物」である侏儒が自分を嗤った人々への復讐を美女に向けるという点では、同じ「フリークスもの」である乱歩の『一寸法師』と共振する構造を持っている。ストーリー自体は単純な懲悪物・因果応報物なのだが、実際に出演している「フリークス」たちの存在感が圧倒的だ。「障害者(障碍者)」という、どこか馴致されたカテゴリーが発明される以前に、彼らが有していた言表しがたい力のようなものとでも言おうか。