グラビア


公立図書館の傍にある昔ながらの装丁屋にふらりと立ち寄ったら、19世紀のディジョンを写した写真が5ユーロで売られていた。ノートルダム寺院ガーゴイル、サン・ベニーニュやサン・ミシェルの教会、メゾン・ド・カリアテイッド(人体柱の家)、成角透視図法で写された県庁の建物……そこで取り上げられている多くの「名所」は、現在までまったく姿を変えておらず、1世紀もの時間の断絶が冗談に思える。(日本の街路を写した古写真であれば、ありえない話だろう。)その中で、辛うじて「かつてあった(今はもうない)」姿が写し出されていたのが、rue de Lacetという名の通りの写真。道端の大八車が庶民の生活を偲ばせる。
左下にはphotogravure E. Chesnay, Dijonと記してある。実はこのphotogravureという言葉、店頭で見たときには写真と版画技術を組み合わせた19世紀特有の印刷技術なのかと早とちりしてしまったのだが、なんのことはない、いわゆる「グラビア印刷」(Wikipedia)のことであった。今の今まで、gravure(グラヴュール)と「グラビア」が同じ言葉だとは、思い至らなかったのである。
E. Chesnayの名でオンライン検索してみたところ、ディジョンにあったガリバルディ像の写真が出てきた。
http://www.histoire.ens.fr/garibaldi/campagne_vosges/image10.html
このChesnayなる人物は、憶測するに19世紀のディジョンで活躍した写真家(名所の撮影専門、18世紀イタリアの風景画家のようなものか)だったのだろう。件の装丁屋にあった他の古写真も、すべてChesnayの撮影であった。(ひょっとしたら、古い写真集をばらして売っていたのかもしれない。)ちなみに、リンク先の古写真にある銅像は、第二次大戦中に「歴史的ないし芸術的価値を持たない銅像の撤去」を定めた法令に基づいて徴集されてしまったようだが、「ガリバルディ通り」という地名は今日まで残っている。