Stage au Consortium

現代アートギャラリーでのインターン研修の2週目。Rachel Harrison(Greene Naftali Galleryのページ)というNY在住のアーティストの展覧会設営作業を行う。
  
搬入されてきた作品の数々。


  
今回の展示で中心となるのは、抽象的な立体造形にready madeのオブジェを組み合わせたもの。元々はありふれた商品でしかないレディメイドも、「作品」の一部として丁寧に梱包されていた。細々した付属品がたくさんあるため、パッキングリストとのチェックは必須。


 
空間インスタレーションの一部をなす58枚もの写真を、きっちり3cm置きに並べる作業。直角定規と水平器を駆使する。測ってみると1mm以下のズレでも、直線ばかりの中では、はっきりと「曲がっている」と知覚されてしまう。写真の額は、落下と盗難を防止するため、細いワイヤーでビスに固定しておく。


   
木材を使った立体作品の一部。鋸の歯を入れた部分のささくれ立ちを保護するため、輸送時には大掛かりな段ボールの覆いが掛けられていた。
作品は「未完成」の状態で運び込まれ、ギャラリーの空間とのバランスを見てアーティストが配置を決め、最後に細かなオブジェを取り付けていく。右端は、木材を使ったインスタレーション作品の仕上げに、表面におがくずを撒いているアーティストを写したもの。ある種の現代アートに関しては、作品はアトリエで完成するのではなく、その都度ギャラリーで生成するものなのだということを実感する。
おがくずやレディメイドのオブジェを予め貼り付けてしまうと、輸送の際の梱包が難しい上に破損のリスクも高まるため、いつも展覧会場に来てからこの作業を行うのだそう。作品が世界各国のギャラリーを「旅行」することは、もはやアーティストたちにとっては当然の前提になっているようだ。


  
ボーリングのピンを利用したインスタレーション。ボールを投げてようとしている男性の写真から数メートル離れた場所に、ピンが設置されている。このピンは、床を這わせたビニールワイヤーの上に置かれていて、来場者が「うっかり」ワイヤーに足を引っかけると、派手な音を立てて倒れる仕掛けになっている。鑑賞者の非意図的な行為が介入したときに、はじめて作品が完遂する。


  
左はギャラリーの看板。昔は公衆浴場だったという古いアーケードを抜けた中庭にある、小さな白亜の建物。右は夏の間だけ開く売店のショーウインドウ。second marchéとあるのは、19世紀から続く大市場の真向かいに店があるから。限定発行の写真集や画集、現代アート作品、デザイナーズ物のインテリアプロダクトなどを取り扱っていて、価格はいちばん安価なラッピングペーパー(グラフィックデザイナーの作品で、多色刷り版画技法によるもの)でも1万円以上。現在のアートの世界での、「作品」と「商品」のあり方の一端を垣間見られた気がする。草間彌生の『ナルキッソス・ガーデン』を構成していた1500個のミラーボールの内のひとつも、ここで販売されている。

Rachel Harrisonの作品はコンセプチュアルなものが多く、また今回の会場はごく小規模なため、シリーズを形成している作品のうちのごく一部しか展示されていない。作品プレートも解説パネルもない(作品名を記した会場内見取り図は、受付で配布しているけれど)今回の展示形式では、正直「この手のアートはやっぱり難解」と思う来場者も多いのではないだろうか。キュレイター側には徹底したホワイトキューブ空間へのこだわりがあるようだし、今回の設営スケジュールや段取りを考えたら、プレートやパネルの類を作成して設置する時間的余裕はとても無かったのだけれど。

Consortiumは、所有するギャラリーこそ小規模だが、フランス国内外の展覧会キュレーションも行う、いわば頭脳集団。2001年にはヴェネツィアビエンナーレのフランス館委員を務め、またセヴィリアやロンドン、ウィーン、ブリュッセル、ひいてはソウルや北京など東アジアでの展覧会も手掛けてきた。今年の夏には草間彌生展が、ソウルと北京を巡回する予定。ブルゴーニュ地方のクリュニーにある、かつての厩舎を改修したギャラリーでは、クリスチャン・ボルタンスキーの「Questions-Réponses」展も開催される。