美術になにが起こったか―1992‐2006

美術になにが起こったか―1992‐2006

自分が物心ついてから直近の年にいたるまでの、日本の美術/アートの場におけるアクチュアルな出来事が、様々なメディアに掲載されたレビュー・批評を集成する形で再構成されている。
とかく甘美で快い紋切り型で語られがちな画家である藤田嗣治の、晩年に頻出する不気味な子供の形象についての言及と、まだ記憶にあたらしい洋画家・和田善彦による盗作事件についての分析――模倣の習熟をもって至上価値とする古典的かつアカデミックな美術教育の伝統と、選考審査会という制度が抱える問題点の指摘――は、特に面白かった。
展覧会やアート関連イベントが日本各地で無数に生起しているであろう中で、「椹木野衣が取り上げた」という事実は、どの程度の影響力を持つのかが気になるところ。
彼がどうして奈良美智にそこまで肩入れするのかだけは分からないけれど。奈良のイラストレーションは、自己から離れて自己をまなざすような批評性への自覚も、逆説や皮肉や価値転覆への挑戦も欠いた、無批判的にベタなオンナコドモ受け狙いというか、『MOE』や『みずゑ』やあるいは『Spoon』あたりに掲載されていそうな雰囲気のものでしかないと個人的には思うのだが。