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草迷宮 (岩波文庫)

草迷宮 (岩波文庫)

語り手や登場人物の人称が、場面毎に移り変わっていって、初めはなんとも戸惑うnarrationの構造である。
鏡花作品に通底するテーマである母恋の物語と、異形の化け物たちの世界。手毬歌の断片的記憶として残存している母親のイメージは、その母の歌声を共有する幼い頃の遊び友達であり、その後神隠しにあって消えた少女のイメージへ、あるいは村の青年が山中で出会う今生の者とは思われない女人へ、さらには色鮮やかな手毬――この手毬は、突如として消えたり他の丸い物に姿を変えたり、とんでもない場所に空間移動したりする。そして種村季弘氏による後書きでも指摘されている通り、この物語には丸い手毬のイメージが移行し変形したと思われる事物が、人を化かす媒体として、数多く登場するのだ――へと、次々に横滑りしていく。