プラド美術館展東京都美術館〜6/30)
ベラスケス、エル・グレコ、ムリーリョ、ゴヤと言ったスペイン勢をはじめ、ティツィアーノルーベンスなど、「巨匠」の作品が少しづつ取り揃えられている。作品数は少なめだけれども、コンパクトに纏められている分、コレクションの母体となったスペイン宮廷と芸術との関係や、スペインの美術とイタリアやオランダとの関係などを概括的に把握することができる。
ムリーリョやスルバランの、あくまでもスイートで口当たりの良い聖女像と(そのためか、教会のお土産として販売されている「御絵」に、ムリーリョの『無原罪の御宿り』のコピーをよく見かける)、ティツィアーノの描く通俗的で生活臭溢れる、まるで洗濯女か肉屋のおかみのようなサロメやヴィーナスとの対比が面白い。
北方の画家による原画では、細密なリアリズムゆえに生身の人間としての粗が目立つカール5世が、ティツィアーノ作成の作品では荒粗な筆致が奏功し、王者の威厳を纏った肖像となっているのも興味深い。緻密すぎる仕上げへの戒めは、絵画論の歴史の中でしばしば登場するものであるらしいが、その実例を目の当たりにすることができた。
対抗宗教改革期のスペイン絵画(民衆教化のために、幻視や殉教などインパクトの強い画題と、劇的な構図や明暗法が用いられたという)と、ティツィアーノに代表される色彩のヴェネツィア派、それからオランダ由来の過剰なリアリズムによる静物画が大半を占めるため、非常に重厚でドラマティックで大胆で、一言で言えば「くどい」作品ばかりの印象だ。ティツィアーノの描く赤いビロードなんて、生ハムのようである。一体スペイン宮廷ではこれらの絵画がどのように飾られていたのか、ちょっと現在のインテリアに対する感覚からは想像がつかない。