指で視る

ロジェ・ド・ピール『絵画原理講義』(1708)の翻訳ゼミで「彩色」の章を担当しているのだが、そこでは「盲人の彫刻家」を巡る、面白いエピソードが紹介されている。彼は大理石像や生きている人間を手で触ることで、その輪郭や凹凸を確かめ、実物にそっくりの蝋製塑像を作ることができたという。ド・ピールの知人が目にしたという、その盲人彫刻家の肖像画には、指の先に眼が描かれていたそうだ。
ド・ピールのこの件は、デリダは『盲者の記憶』で「素描家の盲目性」を説く際に、傍証的に引用している。(これは、記憶の中での像の保持と、その再現という問題に接続される。)
ディドロの『盲人書簡』(1749)では、ド・ピールへの言及はないものの、イギリスのサンダーソンという卓越した盲人数学者の例が挙げられている。サンダーソンは触覚によって計算や幾何学証明をこなせる装置を考案したのみならず、古代貨幣を手で撫でるだけで、鑑識家の眼すら欺くほどの巧妙な偽造も見抜くことができたという。