ルイス・カーン(ルイ・カーン)と「建築のスピリット」の体現としての廃墟

ルイス・カーン建築論集 (SD選書)

ルイス・カーン建築論集 (SD選書)

 沈黙と光について一言。建設中の建物はいまだ苦役を知りません。存在への望みが非常に大きいので、その足もとには一本の草も生えることができません。存在せんとするスピリットはそれほど高揚しています。建物が完成して苦役のなかにいるとき、建物はつぎのように言おうとします。「さあ、私がどのようにつくられたかをあなたに告げましょう」と。誰もそれには耳を傾けません。部屋から部屋へと渡り歩くのに誰もがみんな忙しいのです。

 しかしその建物が廃墟になって苦役から解放されるとき、そのスピリットが現れ、建物がつくられたときの驚異について告げようとします。

 先例をもたぬ過去の偉大な建物について考えるとき、われわれはいつもパルテノンを引き合いにだします。それは開口を穿たれた壁から生じた建物です。パルテノンにおいて、光は列柱の間の空間であるといえます。つまり、光−光なし、光−光なしというリズム。それは壁に穴を穿つことから生じた、建築における光の途方もない物語を告げます。
(上掲書、87-88ページ)