【建築の身体・建築の皮膚】
つまり、いままで述べたことを簡単に申し上げれば、三種類の荒廃が今日のゴチック建築を醜いものにしているのだ。この建築の表皮にしわだの、いぼだのをつくったのは、「時」のしわざだし、この芸術に暴行だの蛮行だのを加えて打撲傷だの骨折だのをつくったのは、ルターからミラボーにいたるまでのいろいろな革命のやった仕事なのである、切断や切除や手足の脱臼、つまり「修復」は、ウィトルウィウスやヴィニョーラの流れをくむ先生がたのギリシア式か、ローマ式か、野蛮式かの作業の結果なのだ。
(113‐114ページ)

【書物は建築を】
「…だが手はじめにまず、大理石につづられたアルファベット文字、つまり秘密の書物の石のページともいうべきものを順々に読む方法をお教えしましょう。ギヨーム司教の正面玄関やサン=ジャン=ル=ロンの正面玄関からサント=シャペル礼拝堂へ、それからマリヴォー通りのニコラ・フラメル邸へ、つぎにサン=ジノサン墓地にある彼の墓へ、モンモランシ通りの彼の二つの施療院へとご案内しましょう。サン=ジェルヴェ施療院の正面玄関とフェロヌリ通りにある、四つの大きな鉄製の薪台に刻まれた象形文字も読ませてさしあげましょう。…」[…]

「いやはや!先生の言われる書物とはいったいなんのことなのですか?」
「ここにその一冊が見えます」と司教補佐は答えた。そして部屋の窓を開けると、ノートル=ダムの巨大な聖堂を指差した。[…]司教補佐はしばらく黙ってその巨大な建物をながめていたが、やがて溜息をひとつつくと、右手を、テーブルにひろげてあった書物のほうへ伸ばし、左手をノートル=ダム大聖堂のほうへ差し出して、哀しげな目を書物から建物へ移しながら言った。[…]
「書物は建築を滅ぼすことになるだろう!」
(175-176ページ)