わたしのウクバール発見は、一枚の鏡と一冊の百科事典の結びつきのおかげである。[…](深夜には避けられない発見だが)わたしたちは鏡には妖怪めいたものがあることに気づいた。そしてビオイ=カサレスが、鏡と交合は人間の数を増殖するがゆえにいまわしい、といったというウクバールの異端の教祖の一人のことばを思いだした。[…]翌日、ビオイはブエノスアイレスから電話してきた。その話によれば、『百科事典』の第四十六巻のウクバールの項をいま見ているという。[…]『百科事典』の文章ではこうである。それらグノーシス派に属する者にとっては、可視の宇宙は、可視の宇宙は、幻想か、(より正確には)誤謬である。鏡と父性はいまわしい、宇宙を増殖し、拡散させるからである。[…]その夜、わたしたちは国立図書館を訪れた。地図、目録、地理学協会の年鑑、旅行者や歴史家の記録などをあさったが徒労に終わった。ウクバールに足を踏み入れた者は一人もいなかったのだ。ビオイの『百科事典』の総索引にもその名前は記載されていなかった。翌日、カルロス・マストロナルディ[…]がコリエンテス街とタルカウアノ街の角の古本屋で、『アングロ・アメリカ百科事典』の黒と金の背を見かけた。彼はその店に入って、第四十六巻を調べた。当然のことながら、ウクバールについての記述はまったく見あたらなかった。
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