ペドロ・アルモドバルLOS ABRAZOS ROTOS』(仏題は「Étreintes brisées」、英語圏では「Broken enbraces」と訳されている)を観てきた。気付いたことをいくつか。

  • 「映画を撮ること」と「過去を語ること」が映画内で作り出すメタ構造
  • 説明的に用いられる「鏡像」

瞳への反映=主人公の向かい側に女性がいる
クローゼットのよく磨かれた扉への反映=ヒロインの父が自宅のベッドに横たえられる
車の後部窓への反映=病院への到着

  • 知覚の不自由さと翻訳関係

PC操作のガイドやインターネット上のニュースを、盲人用ソフトが電子音声で読み上げる
盲目の主人公に、秘書の息子が写真や映像に写っている情景を説明する(主人公が「描写してくれ」と命ずる)
音声の入っていない映像を見ながら、読唇術の専門家がそこで交わされていた(と思しき)会話を再構成する。人物の口元が隠されている間は、「不明」(だったか、記憶が曖昧)と言う。

  • 挿入されるメタ映像の「メタ性」を示唆するもの

エルネストが富豪の父(ヒロインのパトロン的愛人)に命じられて撮った記録映像=粒子の荒い低画質の映像
主人公が制作した映画=周到にレタッチしたような、やけに彩度と色温度の高い、ツルツルした質感の映像(一昔前のファッション・グラビアのよう)

  • 映すための機械

エルネストの回すビデオカメラ
主人公とヒロインがタイマー撮影を行うカメラ(CanonのEOS)
階段から転落したヒロインの全身(の内部)を写し出すレントゲン
不思議なことに、映画監督である主人公が機材を回すシーンはほとんど出てこない

  • 見ることと触ること

ラストシーン、自分と愛人の最後の場面(交通事故に遭う直前に抱き合う二人を映した、隠し撮り映像)の写し出されたスクリーンを、撫でるように抱き締めるように触る主人公

気が向いたら粗筋を補足します。