物質と肉体性

    
ルーヴルでヤンペイミンの描くモナリザを見て、ふと考えたこと。絵画における物質(つまり絵の具)は、人間の「肉(chair)」に近いのではないだろうか。滴り落ちる絵の具が、血や汗を喚起する。右端の写真は、オルセー美術館に所蔵されているHenri Regnault《Exécution sans jugement sous les rois maures de Grenade》(1870年)の一部分。飛び散った絵の具の染みが、そのまま「表現されたもの」としての血痕を形成する。それは、一種のイリュージョンとして成立する「絵画」(画材の集積がイメージとして把握される)と、物質それ自体との、中間地点に位置しているように思う。