半円形と帰属性

大学図書館にて、クロード・ペローが仏訳した『建築十全』の原版(1673年パリ刊行)を閲覧。帝政ローマ時代の建築家ヴィトルヴィウスによる建築理論書の仏訳で、図版も復元されている。
Galicaのオンラインデータはこちら:http://visualiseur.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k85660b
    
上掲写真の右端は、ローマの半円形劇場。ルドゥーが設計したアルケ・スナンの王立製塩所と、ほぼ相似形を為す形態である。
ペローによる図版復元と言っても、版画制作に当たったのは専門の版画師である。署名がなされている分だけでも、S. le Clerc、G. Scotin、Grignon、Tournier、N. Pitau、G. Edelinck、P. Vandrebanc、I. Patiany、E. Gantrelの9人が確認できる。

ピラネージのメタ絵画構造に類似した構図。上部の紙片内の絵画空間と下部のそれとが、連続しているようにも見える。同様の構図が複数の版画師によって採用されているので、特定の版画師による創意ではなく、ペローの指示によるものだろう。
ところで、この手の建築図面版画を扱う際に常に疑問に思うのが、どこまでが建築家に負うもので、どこからが版画師の独創なのかということ。というのも、大抵の場合、設計者とは別の人物が版画制作を手掛けているからだ。親切(?)な図版になると、「XX des. YY scul.」などと署名がなされていて、これなら「XXの粗描きした図面をYYが版画に彫った」と分かるのだが。もっとも、「作者の確定」を問題にするなら、工房での共同体制が取られていた時代の作品については、そもそも単独の「作者」を想定すること自体が不適切な問いなのかもしれない。
ちなみに、制作者を表す「fecit(制作した)」「sculpsit(彫った)」「faciebat(制作した・完了形)」などのラテン語とその略記については、次のサイトに解説が載せられている。
http://www.coinbooks.org/esylum_v07n26a11.html
  
本の最初と最後の頁に書き記されていた、持ち主のサイン。一部が褐色に変色しているが、烏賊墨(セピア)を使ったインクなのだろうか。取得年は1751年とある。この本が生きてきた時間と、この本を紐解いた歴世の人間たちの時間とを考える。