Jan Fabre au Louvre : L'Ange de la métamorphose展(ルーヴル美術館)


ルーヴルの複数の展示室内に、そこに描かれている主題と呼応するファーブルの作品を配置したもの。ルーヴルの既存の展示とファーブルとがコラボレイトしたインスタレーション。フランスのプリミティヴ絵画の部屋では、ピエタ磔刑図(つまり身体的な面も含めた受苦を描いたタブロー)の間に、血で描かれたというファーブルの絵が掛かっている。それらは一見、セピア色の単色水彩画のように見えるのだが、メディウムを知らせるプレートの文字にぎょっとさせられる。自画像らしき一枚には、「le serveur de l'art, Martyre(芸術のしもべ、殉教者)」との文字がある。そのモノクロームの色彩と呼応するように、反対側の壁にはグリザイユの絵画が掛かっている。
他にも、玉虫や甲虫を敷き詰めた甲冑や巨大な球体、骨を貼付けた空洞の僧衣など、ファーブルお得意の作品群があった。骨や血、昆虫の屍骸という、ある意味ではおぞましく残酷さを喚起するマテリアルを使用しているにも関わらず、彼の作品はどこかポエティックで静寂な美がある。それは例えばTraces du sacré展に展示されていたダミアン・ハーストの、小さな甲虫の屍骸を積層させ、黒い塗料でムラ塗りにした作品が呼び起こす、直接的な生理的嫌悪感とは、ほとんど同じ素材を使いつつもかけ離れているように思える。
マリー・ド・メディシスの生涯を描いた連作(ルーベンスによる重厚で壮大な大連作)の掛かる豪勢な部屋には、累々と積み重ねられた墓石と、その中央に横たわる巨大な人面ミミズのインスタレーション(タイトル『自画像』)が。これは随分と人を喰った展示だ。
正直なところ、ファーブルのコンセプトも造形も少しあくどい感じがしたけれど、歴史的な「名画」と、「どうしてこれが芸術なの?」と問われがちな類の現代アートが対話し、共鳴し、展示空間に新たな意味を創り出すという点では、面白い企画だったと思う。