河瀬直美殯(もがり)の森
周囲の仏人たち(なぜか3人も)が絶賛していたので、街の外れにある「黄金郷」という名の映画館で見てきた。
ストーリーを簡単に言ってしまえば、33年前に死別した妻の不存在という(そして妻の死後も自分は存在し続けなければならないという)現実と折り合いを付けられない老人と、幼い子を不注意による事故で亡くした、どこか無感情にみえる若い女性ヘルパー二人による、「喪の作業(trauerarbeit)」とその終結を描いたもの。決定的な「救済」(精神的な意味でも、山奥の森で遭難した二人の物理的な救出という意味でも)が到来したのか、しなかったのか、明示されないままに場面は暗転して、タイトルロールが流れ始める。
インターネット上のレビューではかなり不評を買っているようだが、エンターテイメントとしての「感動」や、単純明快な「ヒューマンドラマ」を求めるなら、確かに期待したものは何も得られない作品だろう。
登場人物の腰の辺りを狙った揺れるカメラや、技巧としての長廻しを超えて、ドキュメンタリー映像を思わせるようなワンシーンの連続性が特徴的。そして何よりも、夏の空気の纏いつくような肌触りやその中に潜む匂いが生々しく伝わってくるような、ほの暗くどこか湿った感じの映像が印象に残る。布の上に光が映っているだけなのに、皮膚感覚や嗅覚というレベルで感情移入を誘われるのは、いったいどういう要素に因るのだろう。
湿潤な温帯特有の森林、山里の風景や(茶畑での隠れんぼを俯瞰で撮った映像は圧巻)、日本土着の死生観、山岳信仰といったものが、インテリ系の西洋人たちには受けるのかもしれない。