原美術館で開催中のアドリアナ・ヴァレジョン展へ。新作の「サウナ/浴室」シリーズなどもあったが、目を惹かれたのは、キャンヴァスの裂け目や破れ目からポリウレタン製の血肉が溢れ出す作品群。それは、鋭利な刃物を連想させる切込みだったり(ルーチョ・フォンタナへのオマージュらしいが)、爛れ腐った脱疽を思わせる不定形な開口部だったりする。一枚の平面でしかないと思われている絵画や地図から、内奥に属するグロテスクな物体が覗くというのが面白い。展示会場の冒頭に掲げられた、タイル絵風にユディットを描いた油彩画では、下部のタイルの何枚かが白地に赤の色大理石になっていて(大理石模様をわざわざ手描きで再現するという点は、フラ・アンジェリコっぽい)、それがホロフェルネスの首から流れ出た血による網目模様のようにも見える。

ヴァレジョンの名で画像検索をすると、タイル壁の切断面からぎっしりと贓物が覗いている「ラパの美人」と、花模様のタイルから大量の血糊のような巨大な舌のようなものが流れ出す「花模様に舌」という、インパクトの強い二作がヒットするが、今回の展覧会にはこれらは出品されていない。