パゾリーニ監督によるフィルム『リコッタ』を観る。(4人の監督によるオムニバス『RoGoPaG』の中の一篇である。)ジャーマンの『カラヴァッジオ』中の活人画シーンに示唆されて、突発的に類似テーマを扱った作品を観たくなったのだ。

キリスト受難劇を扱った映画撮影の顛末に、端役の男(キリストと共に磔になる盗賊役)の間の抜けた受難劇が重なり合わされる。碌に食事も採れないほど貧しいらしいその男は、映画撮影中に支給された折角の弁当も喰いっぱぐれ、道端で売っていたリコッタ・チーズ(ricotta:チーズを牛乳から分離した後に残る、酪漿のことだという)を暴食した挙句に、撮影中に十字架の上で事切れるという腑抜けっぷり(uomo di ricottaは「腑抜け野郎」くらいの意味だ)を晒す。

映画の一場面として展開される活人画は、二種類の『キリスト降架図』である(参考サイト)。ヤコポ・ポントルモによるもの(画像出典)と、ロッソ・フィオレンティーノのもの(画像出典)。ともに16世紀のフィレンツェで活躍した画家である。

活人画のシーンは、静止したカメラでロングショット気味に切り取られ、極めてスタティックな印象だ。(あたかも本当の絵画であるかのような錯覚を覚えるほどに。)しかし、カメラが個々の人物に近づくと、お互いに他愛無い私語を囁きあっていたり、あるいは鼻を穿っていたりと、脱力するナンセンスさである。マニエリスム絵画のパスティッシュをやる一方で、この短篇は莫迦莫迦しくどこか暴力的な笑いに満ちている。
(それ故か、「信仰への懐疑」やあるいは「階級闘争」をブラック・ユーモアの中に描き出した、とする解釈も数多くなされているようだ。事実、パゾリーニはこの作品により、キリスト教冒涜のかどで有罪宣告を受けたという。)